読み仮名 | きゅうしわぐんやくしょちょうしゃ |
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指定種別 | 県指定 |
種別 | 建造物 |
指定年月日 | 2021年 4月 9日 |
指定詳細 | |
数量 |
1棟 |
所在地 | 紫波郡紫波町日詰 |
所有者 | 紫波町 |
保持団体 | |
管理団体 | |
ホームページ |
概要
旧紫波郡役所庁舎(以下、郡庁舎とも称す)は、建築の経緯、設計者、施工者、工事の内容などについては史資料に欠き詳らかでないが、岩手県の郡制施行後の明治31年(1898)3月に建設されたと考えられている。大正12年(1923)3月の郡制廃止後は、県の出入機関的な機能を担い、大正15年6月の県内各所の郡役所閉鎖に伴い、郡役所としての業務を停止している。 昭和2年(1927)になると県は日詰町に建物を無償で貸し付け、日詰町は同町の公会堂として郡庁舎を使用したという(昭和4年頃に至り、県は郡庁舎を日詰町に払い下げている)。その後第二次世界大戦終戦まで郡農業会紫波支部、県生産農業連合会支部などといった農業関係の事務所として使用され、終戦後は県教職員組合紫波支部、紫波農業改良普及所などの公共出先機関の事務所として使用された。 昭和30年(1955)4月の町村合併で紫波町が誕生すると、建物は町役場庁舎として使用され、昭和38年2月の新役場庁舎竣工を機に、庁舎の第一会議室、同第二会議室のほか、町職業訓練協会ならびに紫波高等職業訓練校、町社会福祉協議会の事務所として使用されるようになった。 平成27年(2015)に現在の役場庁舎建設が完成すると、町は役場機能のすべてを同庁舎に移転し、郡庁舎は役所としての建物機能を終了し今日に至っている。 旧紫波郡役所庁舎は木造、2階建、寄棟造、鉄板葺屋根の建築で、正面をほぼ西向きとし、中央位置に切妻屋根の玄関ポーチを、背面に流し場および便所を張り出している。このうち背面の張り出し部はごく新しい部材で構成されており、近年の改装によるものであることが明白である。 玄関を入るとホールが背面まで貫いており、ホール北側は第5会議室、南側は西から縦覧室、階段室、廊下を配置し、階段室下は倉庫としている。2階は北寄りに大会議室を配置し、南西隅の一室を職員室としている。 正面および両側面は1,2階とも上げ下げ窓を並列に配置し、背面は1,2階とも南半の範囲に正側面同様の上げ下げ窓を並べている。外部壁面はペンキ塗装を施した下見板張りで、1,2階境に鉄板葺の見切りを設けている。小屋組はキングポストトラス組を基盤として寄棟屋根を形成し、全面瓦棒形式の鉄板葺としている。 内部の壁は間仕切り壁とも木摺り下地の土壁を基本とし、当初は白漆喰塗仕上げ、後世に黄大津壁仕上げないし白色塗装などで塗り替えている箇所がある。階段下倉庫内の壁以外はペンキ塗装を施した竪板張りの腰板壁を巡らせ、要所に出入り口などを設けている。各扉はガラス入りの片開き形式の木製建具を基本とし、窓は下方を上げ下げ窓、上方欄間は内倒し窓とし、それぞれガラス入りの木製建具としている。なお、2階大会議室南面壁の両面および職員室三方の腰板壁上方は、化粧石膏ボード張りなどの改装を行っている。 各室の天井は階段室上方天井と1階背面廊下の天井が棹縁天井で、その他は後世施工の石膏ボード張り天井。この石膏ボード張り天井の上部に、当初の天井が遺存し、大会議室には基盤を六角形とした角型ドーム状の笠を有する照明器具が残っている。各室の床は後世施工の床材によっている箇所が多く、現状床面下層に当初の床が遺存しているようである。 玄関ポーチは四隅に方形断面の柱を立て、正面両柱上に端部繰形付の繋梁を渡し、同繋上に軒桁を組んで切妻屋根を受けている。天井は格縁天井で、格間の天井板は全体を市松模様状に見せる小割板張りとしている。以上の木部構成材は全面ペンキ塗装を施している。屋根は瓦棒形式の鉄板葺である。 以上、建物の構造形式の概要を記した。わが国では、幕末から明治初期にかけて洋風とも和風とも言い難い建築が国内各地に建設され、これらの建築は一般に擬洋風建築と呼称されている。このうちコロニアルスタイルの建築が見られる。コロニアルスタイルの建築は「ヴェランダ・コロニアル」「下見板コロニアル」「木骨石造」といった3種の形式に分類されるが、旧紫波郡役所庁舎の本屋は、簡素ながらゴシックの細部を取り入れた下見板コロニアル形式の擬洋風建築と言える。 擬洋風建築は用語が示すように、日本の伝統的な意匠である和風の意匠と西洋の意匠とが混在する。本屋は主として洋風意匠を、玄関ポーチは和風意匠を取り入れている点が、本建築の意匠上の特徴となっている。それぞれの意匠を見せている箇所を以下列記する。 [洋風意匠]
などがある。 [和風意匠]
などがある。 また、本屋小屋組をキングポストトラスとしている点は、2階大会議室に独立柱を立てることなく大スパンの室空間を確保する企図から採用した構法で注目される。
以上のように、旧紫波郡役所庁舎は比較的簡素な様相を持つ下見板コロニアル形式の擬洋風建築であり、本屋の造形意匠を洋風主体とし、玄関ポーチは本屋とは対照的に和風意匠を積極的に採用した意匠上の特徴を持つ。なかでも小屋組を本格的なキングポストトラス構造としている点は注目に値する。 旧紫波郡役所庁舎は数度の改装と改修を受けながら、建築としての骨格とこれを構成する諸材料の多くを今日まで維持している建築と言える。明治初年前後から国内の各地に建てられた擬洋風建築の一事例として貴重であるとともに、岩手県内に建設された郡役所庁舎のうち唯一現存する建築として、建築史学的価値や歴史的価値、さらには岩手県内の郡行政機能を担った建築として価値が認められ、将来に渡り保存維持する必要がある建造物である。
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