三陸地方沿岸には、正月から2カ月以上かけて各地区の公民館や民家に泊まりながら各地を巡業し無病息災や五穀豊穣を祈願しながら舞を披露する「廻り神楽」の風習があります。カスミとは各地区の「旦那衆(地元の有力者や名士)」のこと。

宮古市の黒森神楽(くろもりかぐら)と普代村の鵜鳥神楽(うのとりかぐら)がそれで、毎年交互に北回り(普代村・久慈市付近まで)と南回り(大槌町・釜石市付近まで)で神楽を披露します。ともに平成7年には「陸中沿岸地方の廻り神楽」として、「記録作成等の措置を講ずべき無形民俗文化財」に指定されました。

黒森神楽は、もとは宮古市山口にある黒森神社の別当(べっとう)が主宰(しゅさい)し、黒森山を行場とする修験山伏(しゅげんやまぶし)の集団によって伝承されてきましたが、現在は宮古市内のほか、岩泉町などの有志によって受け継がれています。舞込み・舞立ち・墓獅子・柱かがり・火伏せ祈祷・身がためなど、きわめて重要な儀礼慣行をもち、また、演目も豊富であることから、芸能史上貴重な存在です。

鵜鳥神楽は、普代村鳥居の鵜鳥神社に古くから伝わる「山伏神楽」の一種で、鎌倉時代から始まったといわれる山伏神楽の形をそのまま受け継いでいるものです。「卯子酉<うねとり>」が今日では「鵜鳥(うのとり)」と変わったようで、能楽の原型を継承する神楽として全国的に貴重な神楽といわれ,三拍子の荒々しいリズムにのり勇壮に舞われるのが特徴です。

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