きっかけは全国初、田んぼの中のトイレから

 平成2年ごろから、遠野市・綾織(あやおり)地区の圃場(ほじょう)整備について検討が行われていた。この時、「田んぼの中にトイレがなくて困るからつくってほしい」と、市役所に申し出た勇気ある女性がいた。このため市役所では綾織町内の女性団体に声のとりまとめを依頼。こうして全国紙にも紹介された"全国初の田んぼの中のトイレ"は実現したのだった。
 これを受けて菊池ナヨさんたち女性団体の長は「自分の住む地域を住みよくするため、団体や行政に提言していこう」という会を発足させ、これを母体に平成6年「あやおり夢を咲かせる女性の会」ができた。

"夢を咲かせる店"開店

 「夢を咲かせる会」はたくさん夢を持っている。
 *夢を咲かせる店を出したい *地域を見つめる *自然と共生できる環境づくり *1,000万円以上収入のある経営(会の「活動目標」から)
 このうち"夢を咲かせる店"の夢は平成10年にかなった。道の駅・遠野風の丘に開店した「夢咲き茶屋」。これがまたたく間に評判となり、初年度だけで1,800万円を売り上げた。生半可な取り組みではいけないということで、翌年には18名の出資を得て企業組合を設立。
 レストランではなく食堂でもなく、「茶屋」。このネーミングも、メニューも味も、そして値段もメンバーみんなの意見を取り入れて決めた。たとえば商品の「かねなり」「きりせんしょ」。この遠野郷の昔からの団子は各家庭で独自の味を持っている。どの味で商品化するか。会員みんなに「これぞ」というものをつくって持ち寄ってもらい、試食会を行った。味はどうか、形はどうか、手間、コストはかかりすぎないか、などを点数で評価した。ソバも、麺の太さや量目はどのぐらいが適当か、みんなで食べてみて決め、メーカーに特別の玉をつくってもらうことにした

地域へ、北東北へ、夢を発信

 「会員だけの夢ではありません。どんどんまわりに発信していきます」と菊池さんは積極的だ。 
 「こんな町に住みたい、こんな町にしたいフォーラム」も発信の一つ。ここから、農業青年と商工会メンバーとの交流が生まれた。
 「北東北ナベナべサミット」。鍋物を夜なべして楽しむ、というこの奇抜なアイデアは菊池さんのアイデア。北東北広域連携推進協議会の食の分科会に提案。その第1回が平成13年、遠野市のたかむろ水光園で行われ、青森県の「せんべい汁」、秋田県の「けの汁」、岩手県の「ひっつみ」などが振る舞われた。
 そして、翌年秋田県、翌々年青森県と持ち回りで開催され、大いに盛り上がった。しかし、「3年に一度ではさびしい。遠野では毎年やりましょう」ということになって、岩手版ナベナベサミットはその後、毎年開かれている。
 夢はさらに続く。
 「綾織型グリーンツーリズム」。これは都会の子供より、まず地元の子供たちに農業を体験させようというもの。子どもたちにはこれまで、裂き織りや羊の飼育、野菜づくりを体験させた。できた野菜は夢咲き茶屋の食材に使われている。
 綾織はまた「杏の郷」。その実を加工して新しい商品にしようという夢もある。大先輩たちの加工技術を活かすことで、生き甲斐にもし、収入の足しにもしてもらおうという考えだ。
 次代のみのりを夢見る種まきが着々と進んでいる。

主な受賞歴
*平成11年度 第5回岩手県「いきいき中山間賞」
*平成13年度 食アメニティー・コンテスト 農林水産大臣賞
*平成14年度 第1回岩手県地域づくり表彰 知事表彰

リンク
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いわての文化情報大事典(郷土料理集・かねなり)