柳之御所遺跡の保存運動をきっかけに
発端は昭和63年、平泉町高舘橋周辺の遊水地事業にともなう堤防とバイパス工事を行うために調査をしていて発見された、「柳之御所遺跡(やなぎのごしょいせき)」であった。
日本史における貴重な発見であったにもかかわらず、研究者と中尊寺が保存を訴えたほかは保存運動に乗り出す様子がない。そこで、一関市の市民が中心となって遺跡保存を緊急課題として発足したのが「北上川流域の歴史と文化を考える会」だった。会員は地域の住民だけでなく、盛岡市、北上市、奥州市、石巻市など北上川流域の全域から集まった。考える会では、平泉文化に関するシンポジウムを毎年開催し、その歴史的・文化的価値を広く訴えた。その結果保存運動の声は高まり、平成5年、柳之御所遺跡の保存が決定したのである。
未来を担う子どもたちが
自然とふれあいたくましく育つように
考える会の運動がきっかけとなって交流会が発足したのは、平成7年9月。交流会は「ゆるやかな連携」を運営のスタンスとし、考える会会長の千坂げん峰(ちさかげんぽう)さん(現交流会理事長、聖和短大教授、祥雲寺住職)、岩手大学工学部で河川工学が専門の平山健一教授(現学長)、石巻市で環境保全活動に取り組んでいた新井偉夫さん(現NPO法人ひたかみ水の里理事長)の三人代表制でスタートした。北上川と何らかの関わりがある市民活動家が集まり、各自が個人の立場で加入した。考える会は交流会の歴史や文化の分野をサポートしている。
合言葉は「川づくりは人づくり」。川に関わることで人はさまざまなことを学び、体験することができる。イベントや地域行事の告知、事業の報告、また各分野からの提言などを盛り込んだニュースレターによる情報発信のほか、平成8年から毎年開催してきた事業が〈川の指導者〉を養成する「リバーマスタースクール」である。平成9年からは、小学4年生以上を対象とした2泊3日の「北上川こども流域交流会」、平成11年からは中学生を対象とした1泊2日の「ジュニア・リバーマスタースクール」を継続して実施してきた
河川法の改正を機にNPO法人へ
平成9年には河川法が改正され、これまで利水・治水を目的としてきた国の河川行政に、環境保全や親水空間の創造を目的とする理念が加わった。代表的な事業の一つとして、国と地方自治体が連携して行う、河川の利便施設など、交流拠点「水辺プラザ」の整備も全国で進んでいる。河川法改正をきっかけに、交流会は、行政機関から意見を求められたり、調査を委託されるなど、社会的ニーズが高まった。平成12年8月、NPO法人の認証を受け、組織の基盤を強化した。
理事長を務める千坂さんは「NPO法人となったことで、国の補助事業などに申請しやすくなり、活動に幅が出ました。また、調査や地域づくり活動へのアドバイスといった委託事業も受けるようになりました。NPO法人としての専門性が試されるようになるでしょう」と、社会的使命を実感している。
平成14年4月には、一関市狐禅寺の遊水地に隣接して、国土交通省が整備した北上川交流学習館「あいぽーと」がオープンした。交流会は事務局をここに置き、あいぽーとを拠点として、ボランティアガイドの養成セミナーや炭焼き体験教室などを実施している。また、盛岡市の中学校の総合学習の講師を引き受けたり、かつて北上川の舟運を担っていた「ひらた舟」の航路調査をし、水上交通としての復活を検討するなど、これまで構想レベルだったことが一気に現実のものとなってきている。
事務局次長の邉見清二さんは「良い北上川を次の世代に伝えていきたいという人々の思いがやっと形になってきました。主張は10年くらい言い続けて本物になると実感しています」と、手ごたえを感じている。「広域にわたる北上川の特徴は多様性です。それぞれ各地の違いが豊かさとなり、豊かさはお互いを認めることにつながります。まとめるのではなく、連携する。連携して共同で発信していく。それがこれからの時代の地域づくりの姿だと思います」と千坂さん。今後は、川に親しむことから学ぶスローライフの提案もしていきたいと話している。